大砂丘を堪能できるアラビア生まれのラリー
このラリーは数あるクロスカントリーラリーの中でも比較的新しく、そのレースルートがすべて砂丘で構成されているというのがUAEデザートチャレンジの最大の特徴だ。また、アラビア半島の南東に位置するUAE(アラブ首長国連邦)はタックス・フリー(免税)のフリーポートを備え、突出した貿易都市として成長し、さらに油田の恩恵も受け、国民1人当たりの収入は世界でもトップレベル。砂漠の真ん中にきらびやかな高層ビルが立ち並ぶドバイのメトロポリタンは、妙に美しい。
そんなUAEで行われるこのレースは、毎年10月、または11月に行われワールドチャンピオンシップの最終戦として、また数ヶ月後に控えるダカールラリーの前哨戦としてワークスをはじめ多くの選手が参加するためメディアが大きくとりあげることでも有名。特に4輪では三菱、フォルクスワーゲン、KTMなどのワークスチームはもちろんのこと、有力プライベートチームが勢揃いする。また、ダカールラリーに投入する新型マシンの最終テストのため、最新マシンもここで披露されることで注目されるレースでもある。
一方、ワークス勢が揃うといっても1日の走行距離が短く、全体の日程も5日間と短いことや砂丘を思う存分走ることができるという点で初心者のプライベーター達も観光旅行を兼ねて参加している。特に観光地としてインフラが完備されているのでライダーの家族や友人がサポートを兼ねて遊びにくるというケースが非常に多い。
そもそもこのラリーは、中東ラリー選手権のラリー・チャンピオン、モハメッド・ビン・スライェム氏が1991年、地元アラビアの砂丘を舞台に国際的なクロスカントリーラリーを開催しようと始めたもの。モハメッド・ビン・スライェム氏は、中東のラリー選手権で10年以上勝ち続けているトップラリードライバーという顔といくつものホテルやレストラン、会社を持つ青年実業家としての顔も持ち合わせるスーパーエリートだ。
日本人参加者は、ドバイの空港に降りたとたん、別世界に来たことを実感するでしょう。周囲は白装束の人々、表記される文字はミミズの這ったようなアラビア語。街にはモダンな高層ビルが建ち並び、高級車が行き交い、ホテルはゴージャス。しかし、注意しなければならないのは暑さ。レースで砂漠の奥に入り、砂丘群を走る暑さは日本では経験できない。このレースでは砂丘体験だけでなくアラビアの砂漠の本当の暑さ、そして砂丘での方向感覚を体験できる。
レースの概要
通常7月1日にエントリー受付が開始され、まずはエントリーの申し込み。ラリーライセンスの取得、マシンの改造またはレンタルバイクの手配。マシンを日本から輸送する場合は9月頭に日本からUAEに向かう船に船積み。輸送期間は約1ヶ月〜1ヶ月半。UAEがフリーポート(免税港)のため通関がスムース。他のラリーのようなカルネ(一時通関手帳)が不要なので手続きも簡単だ。現地でバイクを受け取った後、レースの書類審査や車検はマシンを通関したドバイで行われる。大会のインフォメーションやブリーフィングもドバイにある大会本部で行われるのでスタートまでの滞在はドバイのホテルとになる。また、プロローグもドバイに特設会場が設けられ人工的なスペシャルステージが用意される。ステージの周りには何万人もの観客が詰めかけ、何台ものテレビカメラで、この様子はUAEだけでなく中東全域で放映される。
プロローグの翌日は200kmほど南下したアブダビからスタートとなる。そこからリエゾンで移動し砂漠の入り口からSSが始まる。初日はそれほど大きな砂丘はでてこないが、いくつかの砂丘が現れ砂の洗礼を受けるだろう。このウォーミングアップを終えると砂丘群の中に設営したビバークに到着。ビバークには主催者の方で用意した大きめのテントが沢山用意されており自分で好きなテントを選ぶのだが、通常は選手の友人や家族のサポートクルーが選手より先に行ってテントを確保し、その中にスペアパーツや寝袋、工具類を置いて場所を確保する。サポートクルーの車はほとんどアスファルト道路で移動するので2輪駆動の車をレンタルすれば十分。また、バハ1000の様にレースのコースの途中でいくつかサービスが許されるエリアが設けられ、サポートクルーは選手の水の補給や身体のケア、マシンの修理など手が出せるのもこのレースならではのもの。今年からレース日が1日増えプロローグを除いて5日間のレースとなるが、4泊は砂漠の中の同じビバーク地を利用するのでテントやスペアパーツなどすべて同じ場所に置いておけるので便利だ。
50メートル級の砂丘に囲まれたビバークに戻ると恒例のプールが用意され、灼熱の砂漠からもどった選手には応えられない贅沢が待っている。そばには冷たいビールやソフトドリンクが飲めるバーもあり、砂丘の囲まれたビバークで飲む冷えたビールは格別な味だろう。
ビバークでの食事は、朝晩用意され各ラリーの中でもかなり凝ったものだ。料理はホテルのケータリングなのでホテルの食事と同等のブッフェが用意される。パスタなどは専用のコックがその場で調理するし、アルコールも自由に選べるのだ。昼食は、朝食後、ランチボックスが支給される。
レースにかかる費用は、バイクのエントリー料が1800ドル(およそ約20万円)、そして宿泊、エアー^チケット、日本とUAE往復の車両輸送料などと合わせて約60~80万円ほどだ。しかし、船便での輸送は手続きや受け取りなど個人で手配しようとするとかなり手間がかかる。すべて一括してサポートする日本の会社があるので問い合わせてみるのもいいだろう。エントリー料以外の一切の手配を約70万円で引き受けている。また、UAEはレイドの代りに日本人が主催する観戦ツーリングが行われるのでそれに応募するのも一つの手だ。
UAEDCを楽しむコツ
UAEの楽しみ方は、できるだけ早めに現地に入り暑さや湿気に体を慣らすこと。ドバイの市内から20kmも行けば砂漠があるので何人かで砂丘を走って自分の技量やスタックの脱出方法を確認すること、タイヤの空気圧をどの程度にするのが走りやすいか事前にテストしておくとよい。
UAEは、タックスフリー(免税)の国なので世界中のブランド商品が安く購入できるうえ、世界有数のリゾート地としても有名。特にドバイ市内にいくつかあるマンモスモールは、1日あっても見尽くせないほど広く、商品も豊富なのでレースに参加した家族や友人達と訪れるといいだろう。ゴールドスークでは世界一金が安く購入できるので、このレースの参加費用の元は取れてしまうかも。
イスラム圏のため、心配する人も多いが隣のサウジアラビアやカタールなどと違い戒律は厳しくなく西洋化が進んだ近代貿易都市として治安が極めて良いため、アメリカ西海岸にいるのかと錯覚してしまうほど。また、レース中のセキュリティ体制も砂漠を知り尽くしたUAEの陸・空軍の全面協力により選手をサポートするので思う存分砂丘の走りを楽しむことができる。 |